コーチングもカウンセリングも、コミュニケーションを通して相手の内面や行動に変化を促すという意味ですごく似ている。
この二つを混同して使ってしまうこともあるのだけど、よくよく学んでいくと決して一緒にしてはいけない明確な違いがありました。
日常の会話では、コーチングだのカウンセリングだのは一切気にしなくて大丈夫。だけど、あなたが以下の状況にいるのであれば、コーチングとカウンセリングの違いを意識しておくとコミュニケーションの質が上がったり、より早く目的を達成できるかもしれません。
- 初めて部下を持ち、後輩と会話をする機会が増えた。
- 友達の相談に乗ることが多く、相談に乗ってあげるのが楽しい。
- 今かかえている悩みをどこに相談して良いのかわからない。
- 家庭内のコミュニケーションを今よりもっと活発にしたい。
コーチングとカウンセリングの違いを知っておくことで、新しいコミュニケーションの可能性を探ってみてください。
・コーチングとカウンセリングの違い
コーチングとカウンセリングの違いとは
最初にコーチングとカウンセリングの定義を正しくみておきましょう。
コーチングはゼロをプラスに働きかける
カウンセリングとの違いを前提に、コーチングとは何かを一言でいうと「コーチングはゼロをプラスに働きかける」ことです。
コーチングとは
コーチングとは、その語源がCOACH「馬車」ということから想像できるように、相手が望む場所へ運んでいく。つまりクライアント(相談者)が目指すゴールに向かって支援することがコーチングであると言えます。
対話を通してクライアント自身が自分の置かれた状況を正確に理解したり、言語化することで気づきが促されます。このような対話のプロセスから、あるべき姿を達成するためにはどうすれば良いのかを一緒に考えるのがコーチングと言えます。
コーチングの由来・歴史から考える違い
19世紀にオックスフォード大学で個人教師がコーチと呼ばれるようになったと主張する文献が存在する。しかし、その後スポーツの分野で指導者をコーチと呼称することが広まり、現在に至る。
出典:経営戦略研究「ビジネスにおけるコーチングの役割 : 類似手法との比較によるコーチングの明確化(出野和子)」
ここにあるようにコーチングは19世紀のオックスフォード大学でコーチと呼ばれる個人教師の存在を主張する文献があったり、1950年代にハーバード大学の助教授であったマイルズ・メイス氏がその著書で「マネジメントにはコーチングが重要」という主張があったりします。
さらに1970年代にティモシー・ガルウェイ氏がテニスプレーヤーの養成法として自ら学ぶことを支援するインターゲームという手法を考案します。やがてティモシー氏と一緒にジョン・ウィットモア氏が学ぶことを助ける質問を体系化しコーチングと名付けたと言われています。
コーチングの対象になる人は?
現在、コーチングは様々な環境で利用されています。スポーツ選手はもとより、ビジネスパーソンでもマネジメントや顧客対応においてコーチングが活用されています。実際に私の周りでもコーチングを利用する人が増えてきました。
他にも学校で教師だけでなく、生徒に対して教育現場全体でもコーチングの手法が注目されています。また、子育てや親子関係など家庭の中でもコーチングを利用するケースもあるといいます。
コーチングを提供する側の資格について
コーチングはカウンセリングと違い国家資格はありません。そのため国内でのコーチング資格といえば民間資格となります。
世界最大のコーチング非営利団体である国際コーチング連盟認定資格としてICFというものがあります。他にも様々な資格が乱立している業界でもありますから、資格取得を狙う場合はよく吟味するようにしてください。
カウンセリングはマイナスからゼロに回復させる
ゼロからプラスに働きかけることをコーチングとするならば、マイナスからゼロに戻すのがカウンセリングの持つイメージです。
カウンセリングとは
厚生労働省が運営するサイトにもカウンセリングに言及した文言がありました。
「カウンセリング」の元々の意味は「相談」、「助言」のことですが、こころの診療においては、医師やカウンセラーが心の悩みを聞き、こころの専門家としての視点から指導や援助を行う治療を意味しています。
厚生労働省「カウンセリングについて(若者を支えるメンタルヘルスサイト)」
カウンセリングとは、一言でいえば対話を通してクライアントの悩みや問題を解決することが目的。
悩んでいたり、問題をかかえている状態というのは、通常をゼロだとするとマイナスの状態だといえます。この悩みや問題がエスカレートすると心の病気につながる恐れがあるので、トレーニングを積んで専門家が行うことが理想的だと思っています。
医療行為の文脈でカウンセリングが施される時には臨床心理士などによる、資格を有した専門家によって行われます。
それとは別に民間資格や無資格でも心理カウンセラーと名乗ることはできるので、心のもやもやの程度でカウンセリング相手を探すのがいいでしょう。
カウンセリングの由来・歴史から考える違い
現在日本で支持されるカウンセリングの手法は、1940年代にカール・ロジャーズという方が来談者中心療法として体系立てたものになります。
それまでは精神科医の一方的な支持内容を患者が実践するというかたちで進められていたようです。支持的なカウンセリングでした。
それに対してカール・ロジャーズは、クライアントの話を受容的な態度で、共感を持って聞くことによって自発的な行動や気づきを促す非支持的カウンセリングと呼ばれます。
カウンセリングの対象となる人は?
カウンセリングの対象となるは、なにも心の病気だけではありません。むしろ、そうした深刻な症状が出る前にカウンセリングを受けることに大きな価値があると思っています。
もちろんカウンセリングを受ける中で、医師に診てもらう方がいいなど適切な判断をしてもらえるはずです。
カウンセリングを受られる明確な基準があるわけではありません。現状は心に病気がある人が受けるものがカウンセリングという誤った認識もありますが、決してそういうわけではありません。
もっと気軽に、カウンセリング受けようかどうか迷っている状態なのであれば、積極的に受けてみるのもいいのではないでしょうか。
カウンセリングを提供する側の資格について
カウンセリングに関する資格は国家資格から民間資格まで多岐にわたります。
国家資格でいえば公認心理師という資格があります。民間資格の代表的なものは臨床心理士です。
他にも一般社団法人日本産業カウンセラー協会の出す産業カウンセラーなど数多くの民間資格が存在します。
コーチングとカウンセリングの比較でわかる共通点と違い
コーチングとカウンセリングの特徴がわかれば、具体的な共通点と違いを整理してみます。
コーチングとカウンセリングの共通点とは?
コーチングとカウンセリングの違いを機会的に強引分けてみましたけど、実際に現場では混然としているような印象です。
自分のことを考えてみても常にゼロの状態やプラスの状態ではなく、マイナスの時なんてよくありますよね。
クライアントもそうなんです。たとえばコーチングの場としてクライアントと向き合ったとしても、マイナスの気分のことなんてザラにあるわけです。
その時に関わるマイナスからゼロに向けたアプローチは、コーチングの場でありながらカウンセリングの要素があるといえます。
手法による厳密な区分ができない分、この二つの共通点について整理しておきたいと思います。
対話のプロセスから目的達成を試みるスキル
コーチングもカウンセリングも対話の中でクライアントの気づきが促され、心理的変化が起こっていくことに共通点がある。
両者とも入口として広い意味でのコミュニケーションが重要な要素なのだ。コミュニケーションといっても、それは質問の仕方や発言内容だけではなく、傾聴でいう受容的態度、共感、自己一致といったカウンセリングの基礎というものはコーチングでも必要なスキルです。
相手の気づきを促す質問や要約、間の使い方なんかもコーチング、カウンセリング問わず必須であると言えます。
心理的安全が大切
前項では、カウンセリングとコーチングの共通点として広い意味でのコミュニケーションというお話をしました。さらにこの土台となるのがクライアントとの信頼関係だと思っています。
信頼関係とは、クライアントからしたらこの場で自分のありのままを表現して大丈夫だという安心感とか心理的安全性のことです。
どうすればそういう環境を作れるのかといえば難しいのですが、心がけるべきは自分の在り方だと思います。何かテクニックのような取り繕ったものだと相手には伝わるものです。もっとbeingの自分の深い部分から相手への貢献を自分の全存在から表現するしかないのかなと思います。概念的でわかりづらくて申し訳ないです。
コーチングとカウンセリングの違いを整理
最後に改めてコーチングとカウンセリングの違いを整理しておきます。
クライアントの状態が違う
クラアントとなる相手の状態がコーチングとカウンセリングでは違います。
自己の成長や高い目標達成など、プラスの方向に気持ちが向いている状態がコーチングを必要とするケースです。逆に明らかに悩みや問題をかかえ、通常の状態よりもマイナスな状況にあるのであればカウンセリングの出番である。
私は「がんばるコーチングとがんばらないカウンセリング」という表現を使い、心理カウンセリングとの違いを説明してきた。コーチングと心理カウンセリングは正反対のアプローチであり、心理カウンセリングが必要な人にコーチングでかかわると、取り返しのつかない事態を招く危険性さえある。そのために、心理カウンセリングが必要な人を相手にしないというのはプロのコーチ集団の倫理規定の一つとなっている。
出典:この本!おすすめします「コーチングの原点(諏訪茂樹/東京女子医科大学)
マイナスの精神状態やプラスの精神状態なんていうのは、日々コロコロ変わる人間の感情からすると移り変わって当然です。
ただしここで引用したように、明らかにカウンセリングを必要とするような精神状態のクライアントに一方的なコーチングの手法で力付けしすぎてしまうのも悪影響であるという点は、コーチをする立場の人は注意しなければならない。
目的とする焦点が違う
コーチングは未来に焦点を当て、カウンセリングは過去に焦点を当てる。
そのため扱う時間軸も原則的には異なるのが普通だ。コーチングの場合は現在から未来にかけて焦点をあてて、あるべき姿を達成するためにはどうすれば良いのかという点に考えをめぐらす。
カウンセリングで扱う時間軸は過去から現在にかけてで、その悩みが問題について相手に寄り添いながら深堀りしていく。そうすることで相手の状態をマイナスから通常の状態に戻すことに焦点を置く。
まとめ
コーチングとカウンセリング。この違いを求めたときに概念として要素を分解し、強引に分類することは簡単です。
高い意欲を持っているクライアントならコーチングで、悩みをかかえていればカウンセリングというのはわかりやすいですよね。
しかし実際に向き合う相手は生身の人間です。そう易々とこの分類に当てはまるなんてことは少ないのではないでしょうか。
コーチングでもカウンセリングでも、クライアントと向き合うセッションは一時間以上かかることが多いですし、一回で終わらずに複数回にかけて実施することもあります。
そうした中で、コーチングとカウンセリングの違いを頭に置きつつも、その区分けはグラデーションのように混在する場所もあることは知っておいても良いでしょう。
あなたが誰かの相談に乗るとき、コーチング的技法が効果的なのか、カウンセリング的技法が良いのかなど判断する一助になればと思います。
逆に誰かに相談をしたいと思っている人は、自分の気持ちの状態からコーチングが向いているのか、カウンセリングが向いているのかを判断して自分にとって一番効果的なアプローチを検討してみてください。
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